2度目の涙

2017/09/22

以前母の友達のお見舞いに行ってから何年かたったある日「お見舞い一緒に行く?」
と母は私に聞いてきた。あれからお見舞いに行っても涙は出てない。泣いた事も忘れていた。「誰が入院してるの?」と聞いた。「○○さんよ。」その方は母の友人で私が小学校上がる前に一度電話で文句を言った事があるおばちゃんだ。

保育園から帰るとよくそのおばちゃんから電話がかかって来ては、私と姉を残して母はバスで20分ぐらいかかるその方の家まで出掛けて行った。

そこに行くと何時も夕飯は遅くなった。
保育園のお迎えの前に出掛けて居残りで最後の一人になる時もあった。

その方は一人暮らしなので、母が帰ろうとすると話し掛けてきて、中々帰してもらえないという理由だった。私は一人は寂しのだろうな〜と思って夕飯が遅くなっても我慢した。

だが呼び出しが頻繁に重なったある日、母が
「いくら一人は寂しいからって毎日毎日行くのは疲れるね〜。」と愚痴をこぼした事があった。

私はテレビでは特撮ヒーローが大好きな正義感の強い女の子その言葉を聞き逃さなかった。

何時もの様にその方からの電話だとわかった私は、母より先に電話に出て、「お母さんを遅くまで取らないでご飯が遅くなるから早く帰して!」
と半ば半泣きで言った。

これには流石のおばちゃんもびっくりした様で、
母が奪う様に受話器を取って謝っていたが、
おばちゃんも「悪かったね〜子供さんに寂しい思いをさせてたね」と謝ってたよ。と母が言っていた。勿論大人に向かってあんな事言ってはダメと叱られたが…

しかし流石に元女社長、おばちゃんの方が一枚上手だった。それからは私も連れてくる様にと母と一緒におばちゃんの家に呼ばれる様になった。これは私にとってはあまり喜ばしい事ではなかった。

ただひたすら話が終わるのをよそのお家でお行儀よく待つ羽目になったからだ。やっぱり大人には敵わないと思うのだった。おばちゃんは私の事がとても気に入った様で行く度に色んなお菓子を用意してくれた。私の話も楽しそうに聞いてくれた。

最初に会った時はタバコを吸いながら口を一文字に結んでは難しい顔で話をするおばちゃんを怖いと思ったが、私の話にハハハッと豪快に笑い、ぶっきらぼうな話し方も照れかくしである事が分かってから全く怖くなくなった。

私は思った事ははっきり言う。幼児にしてはちょっと生意気な子だったがそこも気に入られる要素だった様だ。

私にしてみれば退屈な時間を終わらせたくて逆に嫌われる様にズケズケ言ったつもりなのに何とも全てが思いとは裏腹に事が運び退屈な日々は続いていった。でもおばちゃんの事は嫌いではなかった。

そのおばちゃんが体調を崩して入院しているというのだ。

母と一緒に病室に入るとおばちゃんは後ろ向きでベッドに座っていた。「おばちゃん」と私が声を掛けると此方を振り向きニコッと笑って「いらっしゃい」といつもの言い方で迎えてくれた。おばちゃんの顔を見ると涙が込み上げる。「おばちゃん早く元気になってね」と顔を見て言うのが精一杯で、私はくるっと後ろを向き「ちょっとトイレ行ってくる」
と言って病室を出た。

病室を出るとしゃがみ込んで涙を拭いた。嗚咽がもれそうでその場を離れた。歩いてても涙で前が見えない。又しゃがんで泣いていた。

暫くすると母が側に来た。しゃがんで泣いている私の腕を取り立ち上がらせながら耳元で「ここで泣いていては周りの人がびっくりするから帰ろう」と言って私の腕を引っ張って行く。
私は母の方を見て「おばちゃんは?」「もう帰るって言ってきたから、そんな顔で会いにいけないでしょう」と言われ引っ張られる様に病院を出て行った。その時に母が「あんたにはわかるんかね〜」と小さい声で言った。「何の事?」と私が母に聞いても「何でもない」と言ったきり何も言わなくなった

私はもうおばちゃんには会えないんだ。となんとなくそう思ってもっと悲しくなった。

その後約一ヶ月後におばちゃんは亡くなった。

それからお見舞いに行くのが怖くなった。